排出取引―環境と発展を守る経済システムとは (中公新書) (新書)
本書は,新書という体裁をとりながらも,中身は詳細な説明と事例紹介がなされており,テキストとして利用するのに十分耐える内容の新書だ.加えて,巻末に参照文献と索引を用意している心遣い.すばらしい.■新書というより,・・・.
これを読めば,網羅的に排出取引について知れるだけでなく,意外と中身が分からない京都議定書や最近話題の環境政策などにも触れられる.
■排出取引の原初
初歩的ともいえる「排出取引」がそもそも米国で生まれた考えだったとは驚きだった.
米国の大気公害を減らそうという試みからうまれた考えから始まっている.そして,ガソリン中の鉛を減少するために,ガソリンへの鉛の混入権を売買する鉛取引制度を経て,大気汚染を浄化する法案によって原型が出来上がっているという経緯がある.その後,地球温暖化という環境汚染にも応用され,温室効果ガス削減にも適用されたのだ.
てっきり,僕は二酸化炭素削減のために考案された制度とばかり思っていた.
環境政策には,いくつかの手法が考えられるが,大きく分けて3っつある.
□直接規制
守られるべき環境基準を政府が定め,民間への尊守義務とペナルティを賦課して行う方法
□経済的手法
経済活動を行う様々な主体に対して,環境税や環境補助金,そして排出取引等を行うことで経済的刺激を付与し,環境保全へ促進する方法
□情報的手法
市場経済体制のもとで消費者・事業者・自治体などが環境保全に貢献するような製品・サービス・事業者等を選択しやすくするような情報が市場に出回るのを促進する方法
これらの手法は,どれも一長一短の特徴を有しており,互いに補完しあうようにポリシーミックス(あるいはパッケージ)として実施するのが常套のやり方だ.
■今後の課題
各国で取り入れられてはいるものの,その手法や規模,価格などが異なってくる.また,課題は大なり小なり,多くの問題点を含んでいるのが現状だ.発展途上の制度といえよう.そのためにも国家間,事業者との話し合いの中で,最適解を探索していかなければならない.
何より,この地球温暖化による環境汚染は,その性質上,加害者と被害者の所在表明がむつかい.ここがこれまでの環境汚染である公害問題と最も異なる性質かもしれない.
言い換えれば,世界全体で取り組んでいかなければ解決できない問題でもある.せっかく,排出削減努力をした地域・国があっても,隣の地域・国が経済活動に伴う排出を行っていてはオフセットされてしまう.そういう事情からも,いくつかの改善が今後必要になる.
1.炭素市場を拡大
→グローバルスタンダードな価格設定,排出取引にかかわれる部門の増加,発展途上国の参入などへ寄与
2.経済的インセンティブ
→排出取引にかかわれる部門の増加,発展途上国の参入,諸国・事業者,個人が積極的に参加する意欲につながらせるため
3.費用対効果を高める
→経済成長と環境保全の両方を勘案した制度設計を旨としなければならない.上記の1,2を促進することにもなる
そして今後,持続可能な市場経済を構築していくにあたって,キャップ&トレード型排出取引制度を推し進めていく必要があるのは間違いないようだ.
ケロ
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