Ernest Miller Hemingway(1950)
ヘミングウェイは,1961年,ライフル銃で自殺した.
彼について深く知っているわけではない.彼の持つキャラクターや記号的なものと僕が連関するわけでもない.
彼の作品で読んだものといえば,高校時代に読んだ「老人と海」程度であった.しかも,そこから感じ取れたのは,巨大魚と連日連夜格闘した末に勝利したかと思いきや,鮫によって獲物を無残に食われてしまうというなんとも虚無的結末であり,高校生の時分にはなかなか理解しがたい内容であった.
勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪―ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫)
そんな折,ヘミングウェイの短編を読んでみたくなった.この「勝者に報酬はない」では,ヘミングウェイがパリで過ごした時代から,キーウェイ時代に移り住んだ時代に書いた作品群で構成されている.
全体的に,サバサバした表現でありながら,その地下水流にはしっかりとした意味が伴っているような気がする.なかでも「海の変化」が特に気に入っている.男女の色恋沙汰を描いたものではあるが,とりあつかっているものはレズだ.カフェーで男女が何か話しているのだが,それは女性が男性に対して,レズであることを暴露し,その恋人のもとへ通わせてほしいと懇願している情景であった.男性は勿論戸惑う.しかし,最後には折れてしまう.男女のどうしようもないくらいに理解しがたい価値観.不毛な恋愛.男性はこのとき間違いなく以前の時分とは違ったことを悟る.まるで別人へと自分が変わってしまったことをうすうす彼女の押し通すように理解を求める要求に呑まれていくうちに気づくのだ.そして,以前の自分を失い,新たな自分へと変わってしまう.そんな男女の色恋沙汰の一瞬を切り取りながら,本質的な,普遍的なテーマを透かしてみせるあたり,見事ではないか.
ケロ
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