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2010年5月31日月曜日

僕らは誰でもアイヒマンになれる~「ソーシャルブレインズ入門 <社会脳>って何だろう」


「ソーシャルブレインズ入門 <社会脳>って何だろう」(藤井直敬)

▼空前の脳ぶーむ

いま書店に行くと,「脳ぼん」がやたら目につく.世間では空前の脳ブーム.そんな僕もご多分に洩れず,「脳」に興味深々.

そんな折,書店でソーシャルブレインズというタイトルがふと目に入った.直訳で「社会脳」.

その基本的な考えは以下の通り.
自己と他者の脳が作る社会を前提として,その社会に組み込まれた状態の脳の仕組みを捉える
p.16
既存の多くの「脳ぼん」は「前頭葉を鍛えよ!」とか「脳を使って勉強しよう!」みたいな謳い文句で,ハウツー本と化している.正直,そういう類のものに興味がわかない.それよりも本書のような脳の未知なる場所へと誘う知の冒険のほうが僕は大好きだ.その中で,興味を引いた部分を二つピックアップしてみた.


▼勉強が嫌いなわけ~認知コストとは

人間の脳は,エネルギーを浪費すること(=認知する労力)を先天的に忌避している.その心理を説明するのに「認知コスト」といわれる概念でうまくいくと著者は考えている.例えば,上からアレをやれ,コレをやれと言われながら勉強をすると「大変ストレスがかかる」というのは多くの人に分かっていただけるかと思う.また,ルールを押しつけられると人間は既存のルールから新たなルールへとシフトするのに多大なエネルギーを消費する(ストレスがかかる=認知コストの浪費).このことから生来,人間は保守的生き物だといわれている.

最初の例でいえば,勉強に講じる時,その認知コストを支払ってペイするかどうか(資格が取れるとか,昇進につながるとか)が「勉強するか,しないか」あるいは「面白いか,面白くないか」を決定する.要は,認知コストとベネフィットのバランスなのだ.


これがなぜソーシャルブレインズにつながるのかと言えば,畢竟,認知コストを極限にまで抑えようとする人間の性向によって,社会にはしっかりとした「ルール」が生み出されたといえる.それはルールを共有することで,場当たり的にコロコロとかわる状況をなるべく回避し,認知コストを低く抑えられている.
ここでルールと聞くとネガティブな考えをお持ちの方もいるが,先のように言い換えれば,全く積極的に「認知コストの浪費を防ぐ」役目を果たしていると言えるのだ.


▼アイヒマンに誰でもなれる.

環境によって人間の行動や心理が変化するという例で驚愕するものがある.

アイヒマンはナチス親衛隊隊長として数百万人ものユダヤ人を殺戮した事で有名な戦犯者だ.非人道的な行動とは裏腹にその風貌は,虫も殺せなさそうな温厚な顔立ちである.何故彼はそれほどに非人道的人間になりえたのだろうか?


衝撃的な実験がいまから40年前に行われた.

その名も「スタンフォード監獄実験」.

実験内容は
看守役 と受刑者役にグループ分けて、それぞれの役割をリアルな刑務所に近い設備を作って演じさせた.ただそれだけ.

しかし,そこから思いもよらない結果が出てきた.それは時間が経つに連 れて看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるという事が証明された.この実験は当初2週間を予定していが,看守役が受刑者役への暴力がエスカレートしたことにより,わずか6日間で強制終了したのだ.

人は環境によって,何をしでかすかわからない.このようなコントロールされた実験に限らず,社会の至る所に僕たちの事態を暗転させる場所が隠れ潜んでいる.僕たちは脆弱な倫理観で,社会を綱渡りしていると考えたほうがよいかもしれない.いつ堕ちるか,わからないのだ.


恐ろしくもあり残念でもあるが,僕らは誰でも悪人になれる.


▼いまはじまったばかり

この「ソーシャルブレインズ」という学問分野はいま開かれつつある脳科学のひとつである.しかし,今後も話題に事つかないエキサイティングな学問であるともいえそうだ.脳については,「脳」だけでは分からない.外部と脳のつながりをつぶさに観察してはじめてわかることもあるだろう.そういうことから「ソーシャルブレインズ」の今後が楽しみだ.

ケロ

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